クラバート(上) (偕成社文庫4059)

クラバート(上) (偕成社文庫4059)

クラバート(下) (偕成社文庫4060)

クラバート(下) (偕成社文庫4060)

ドイツの児童文学作家・プロイスラーが亡くなったとのこと。ご冥福をお祈りします。
小学生の時に買ってもらったホッツェンプロッツシリーズに、私は夢中でした。なにはなくともザワークラウト!大どろぼうも虜にする魔法の食べ物が、とにっかく美味しそうで。実際大人になって食した時には「こんなもんか…」と肩透かしをくらったりはしましたが、絵本の中では、素朴なのに奇跡のような食べ物として輝いていたのだった。
でも、プロイスラー作品の中では、クラバートの方がずっと印象深い。幼い頃の読書体験って、ずーっとトラウマのように残り続けているものだけど、クラバートのそれはとりわけ特別かも。あの表紙がね!人面の鳥。しかも青と黒という闇の色。陽が落ちてからは絶対目にしたくないくらいに、10歳そこそこの私には禍々しく見えたものです。ゆえ、ストーリーも惹かれるんだけど、ずっと空の低いところで暗雲が立ち込めているような雰囲気が拭えず、粉引き小屋の面々はもちろん全員青ざめた顔で、不吉な夜をひとつひとつやり過ごしていたような、端的に言っちゃえば、“暗いおはなし” として脳にインプットされていたんです。
が、半年ぐらい前に、それでも抗えない負の魅力と言いましょうか、あの不穏な世界にふと浸りたくなって、やっぱ何回見ても表紙こわいと思いながらも読み返してみたら、意外や意外、そこにあった世界はモノクロでもセピアでもなかった、たくさんの色や音楽や笑顔で溢れていたではないですか!極悪人かと思ってた親方は相変わらず厳しいけど人情味ないこともないし、水車小屋の生活は狭苦しいし労働はきつそうだけど、息抜きで出かける町にはたくさん魅力が詰まってたし、お嬢さんとクラバートの逢瀬も、人目を盗んでいる後ろめたさや怯えより、初々しさや微笑ましさが前面に出ているしで、もう、私が20年近く抱きつづけてきた“暗いおはなし”への恐怖感はなんだったの!とびっくりしちゃいました。あー、本当に面白かった、と心の底から。一転して“明るいおはなし” とは思いませんが、こんなに抑揚が、表情があったんだなあって気付けて嬉しかった。表紙のインパクトで震え上がっていた10歳の小娘には理解できなかったのは、ま、仕方ないなってことにしましょう。
でもさ。名前に魂が宿るとかそうゆうのさ、やっぱちょっとある程度年令重ねないとピンと来ないかもね。再読してみて良かった。そうそう、“デカ帽”の話をね、もうちょっと掘り下げてほしかったな。読みたい。読みたかった、と、もう過去形になっちゃうのだけどね。