ひそやかな花園

ひそやかな花園

らしい!角田光代を読みたいんだ!って時に読むべき、らしさ満開の傑作だった。

自分が自分でいられる場所だった、一年に一度、夏のキャンプ。その記憶だけで生きていけるのだ、と信じていたのに、親たちは執拗に真実を隠す。あのキャンプはなんのためだったの?あのひとたちは誰だったの?そもそも、あのきらきらした時間は本当に存在していたの?
アイデンティティ」に関わる真実に対して、執着の強度が登場人物皆異なっていておもしろい。誰にでも少しずつ、同感だと頷けるけれど、あたしとしては出生の謎が暴かれたところで「これから」が、それ以上に「これまで」がどう変わるっつうのよと思ってるけどもね。思ってはいるけども、これはかなりデリケートな問題っすよ。よく立ち向かったなあ、角田さん。ほんとすごいといつも思うよ…

そして結構泣き所が多く、波留が優しい嘘をついて幼なじみを守ったとこにはほんとにぐっと来た。繭に閉じこもっていた紗有美のラストの変化も素晴らしいの。闇に包まれていたプロローグの「だいじょうぶ」に反して、光の射した上向きの、顔をしっかり上げた「だいじょうぶ」の響きの強さ、心から紗有美を応援したくなった。