神の火(上) (新潮文庫)

神の火(上) (新潮文庫)

久々の高村薫。タイトルの神の火とは、つまり原子炉で燃えさかっている炎のこと。例の福島の事故があってから、母上から読んでみたら?と薦められた一作。まあ高村さんだからいずれは読むつもりでいたんだけども。
内容は、まあいつもの、というか北とか米国とかいろいろ絡んでましてまた理解の範疇を超える複雑さだったんだけど、なんというかですね、最終的に、ネタバレなので書きませんが、主人公・島田の最終行動がちょっと解せない。偶然出会った良というソ連出身で元スパイでっていう白皙の美青年に、破天荒なスピードで惹かれていくくだりはいつもの高村さんの作風なのでまあ分かるんだけど、その良が亡くなって、で、じゃあ遺志を継ごうっていうのが…そんであんなことまでしちゃうのかっていうのが…しかも同じく良をすんごく可愛がってた日野って男とタッグ組んで、…で、なんかやり遂げた後にはぜんぜん良のことは頭によぎらずに結局疎遠だった両親のことを思い出すとか…この、良が死んでからの一連の行動が理解不可能。行動自体はまあいいんだけど、全工程での島田の心の動きがまじでまったく理解できなくて、せっかく分刻みで臨場感たっぷりで書き上げてるのに、その場面だけ別の物語みたいに感じちゃって集中できず、すっごい残念だったんですけど。人智の及ばぬところって感じだった。そんぐらい確かに島田の精神は振り切れてたのかもしれないけど(味覚がなくなって、過去の記憶を辿って想像しながら食べる姿が実に痛々しかった…)、「もう勝手にしてー」て感が拭えませんで。
まあでも高村さんの書く主人公は総じて厭世的だしポジティブなセリフを一切吐かないので大好きですわ。陰の魅力。そうゆうところは読んでて同調してほっとできます。